(2012/07/27)[出来事]
「近いうちに、お帰りになるようなことはございませんか」

「爺(おやじ)が病気で、明日(あす)の汽車で帰ります」
「そう、明日の汽車で、では、すこしお願いしたい事がございますが、聞いて戴(いただ)けませんでしょうか」
「どんなことですか」
「なに、ちょっとしたことでございます、お手間をとるようなことではございません」
「承知しました」
「ではお願いいたします。貴郎(あなた)は福岡市の××町を御存じですか」
 それは停車場(ていしゃじょう)と己(じぶん)の家の途中にある町であった。
「好く知っております、家へ帰るには、どうしてもそこを通りますから」
「では、どうかお願いいたします」
「××町に御存じの方でもおありですか」
「あすこに山路(やまじ)と云う酒造家(さかや)がありますが、御存じでございましょうか」
「山路なら知ってます」
「その山路でございますが、すこし私に考えがありますから」
 と、女は膝(ひざ)の上に置いていた左の指に右の指をやって、さしていた黄金(きん)の指環(ゆびわ)を静かに抜いて、
「これを貴郎にお願いいたしますから、福岡へお帰りになるまで、指にはめていてくだすって、山路の前へ往いた時に、抜いて地べたへ落してください」
 謙蔵はみょうなことを云う女だと思って耳をたてた。
「べつに何んでもありません、ただちょっとした禁厭(まじない)でございますから、一度地べたへ落してくだすったら、もう用はありませんから、直(す)ぐ拾って、貴郎の所有(もの)にしてください、お礼にさしあげますから」
 謙蔵はうす鬼魅(きみ)悪く思わないでもないが、生死の判らない病人の許(もと)へ帰って往くのに、汽車賃以外に一銭の小使(こづかい)のないのを心苦しく思っている処であったから、その心は黄金(きん)の指環(ゆびわ)に惹(ひ)きつけられた。
「じゃ、山路の前へ、ただ落したら好いのですか」
 と、云って彼は女の差しだした指環を受けとった。
「それで宜(よろ)しゅうございます、ただ落してくだされば」
「僕には意味が判らないが、落すくらいの事なら何んでもないのです」
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